音楽畑 オーサーズベスト
収録曲
- 1.晩秋のアダージョ
- 2.虹
- 3.優しさを求めて
- 4.ル・ローヌ(河)
- 5.一条戻り橋
- 6.淡紅(とき)色の夢
- 7.ハルウララ
- 8.天使の声
- 9.音楽畑(シャン ドゥ ラ ミュージック)
- 10.収穫祭
- 11.響(ひびき)
- 12.ナディア マイ ラブ
- 13.今・船出の時
- 14.5月の草原は愛に包まれて
- 15.ダンス オブ シルクロード
- 16.ドーヴァーの白い想い出
- 17.若葉光る頃
- 18.自由の大地
LINER NOTES
晩秋のアダージョ Adagio for Strings
アルバム5作目となると、55曲作ったという事になるわけだから、どうしてもマンネリになる。……と自分ではとりあえず、そう思ってしまったりする。
何か今迄と違う、もやもやっとしたものを作りたいと思っていた時、初日のスタジオでロンドン・シンフォニー・オーケストラのサウンドに啓発され、ロンドンで作曲したのがこの曲です。
10月も末になると、山は上の方から段々に、赤だの黄色だのに染まっていきます。枯れてしまうと、紅いのも黄色いのも茶色くなって、在る晩、木枯らしが吹くと、全山丸坊主で、なんか淋しいなあ。
(音楽畑 5 '88)
虹 Arc en Ciel (サントリー 純生CM曲)
虹は、消えると判っていても美しい。いや、はかないからこそ、美しいと言えるのかも知れない。
子供の頃、丸い固紙(かたがみ)に色をぬって紐を通して、まわして遊んだ事がある。赤と黄色でまわすとオレンジになるのはなんとなくわかるが、七色にぬると白になってしまうのがどうしても不思議だった。
何の色にも染まる事が出来るのは、哲学的で面白い。
結婚式の時に着る綾衣の綾は白という意味で、だから、何色にでも染まる事が出来る、と、ある人から聞いた。
(音楽畑 7 '90)
優しさを求めて Gentle Wind (NHK連続テレビ小説『わかば』挿入曲)
ここのところ、なんだか世の中殺伐としてると思いません? ま、昔から人を傷つけたりいじめたり、親子のいさかいやら色々有ったんだろうけど、今みたいにニュースがすぐに伝わらなかったせいであまり気にならなかっただけなのかも知れないが。それにしても事件の関係者の年齢が年々若くなっていくのは真に心が痛む思いだ。
胸を痛めているだけで何も出来ない自分だけど、せめて真心こめて音楽を書き続けていきたい。
世界中の人に優しさを届けたいと心から思う、聴いてくださいこの曲を。
(Author's Best Vol.1 '04)
ル・ローヌ(河) Le Rhône
スイスの蒼き氷河に源を発するローヌの流れは、プロヴァンス地方を潤しながら中世の聖都アヴィニヨンを緩やかに流れ下り、その豊かな恵みを地中海に注ぐ。
ある時はおだやかに、ある時は陽光のきらめきをまき散らしながら、渓流となり、滝となって砕け散る様は、人の一生にも似て、美しくも又あわれ。
(音楽畑 3 '86)
一条戻り橋 Bon Retour
世の中景気が悪くなると占い、おまじない、心霊現象等が流行るようになる。かくいう私も、このてのものが大好きでジョナサンの星占い、弁天さまのお守り、飛行機事故よけの護符、厄よけの御札各種、魔除けのブレスレット、探せばまだまだ一杯有る。勿論僕自身は本来どちらかと言えば理論的な考え方をする人間で、結婚式はホテルの神社で式を挙げ、初詣にも大体毎年行き、死ぬと今の予定では仏式でお経をあげてもらうことになっている。ま、多少異論もおありでしょうが、一般的な日本人の一人と言わせてもらって良いと思う。勿論、僕も10代の頃はお守りや護符などてんから馬鹿にしていたけど、最近の若者は結構そのてのものを本気で信じているらしい。安倍清明の流行などもその一つの例で、そのお陰で昔は特に観光名所でも無かった京都の一条戻り橋なんかが若い女性の人気の的となっているようだ。昔嫁入りするときには、出戻りするといけないと言うのでわざわざ橋を避けて通ったらしいが、最近のお嬢さんがたにはそんなことはどうでも良いことなのでしょう。逆に旅に出て無事に帰ることができたら「Hi! I'm back!」とお賽銭の一つも上げようではないか。ちなみにBon retour(ボンルトウル)はフランス語で「おはようお帰りやす」の意味であります。 (音楽畑 19 '02)
淡紅(とき)色の夢 Nipponia Nippon
小さな天窓から、真昼の月が見える。鳥籠の中から見上げる少し色褪せた半月は、羽をひろげて飛んでいる鳥の様にも見える。あの月の様にもう一度大きく羽をひろげて、大空を自由に飛びまわりたい……と思ってしまう。燦めく真夏の空を、黄金色に染った晩秋の森の上を、粉雪降りしきる平原を、大勢の仲間達と何処までも飛んで行きたい……。淡紅色の風の様に。
(音楽畑 10 '93)
ハルウララ Haruurara (映画『ハルウララ』テーマ曲)
あまりアクセク生きるのはやめようよ、人生もっとのんびり行こうよということで、ファーストフードからスローフードの波にのって今、高知競馬のハルウララが脚光を浴びている。
初出走からまだ一勝も上げていないのにそれでも一生懸命走り続けるその姿に自分を重ね合わせる人も多いようだ。絶対当たらないというところから、馬券(勿論はずれ馬券です)を交通事故のお守りに持っている人もいる。ちょっとしたブームをよそに今日もまた負け続けるハルウララ。3月に引退レースをやると聞いた。
その後は故里の北海道で余生をノンビリと暮らすらしい。これ又近頃にない好い話だと思う。
(Author's Best Vol.1 '04)
天使の声 Voce Angelica
「もし、その窓を開けてくれれば貴方は天使です」。留学中良く下宿のおばさんにそう言われたもんだ。これはフランス語のいいまわしのひとつで「いい子だからちょっと窓を開けておくれでないかい」と言う意味だ。
最初は直訳して聞いていたから、僕は何度も天使になっていい気分だった。
だれだって天使と言われれば悪い気持ちでは無いから、フランスでは良く使われる。
子供なんかそうとう悪ガキでもたいがいの子は天使ということになる。
天使はもともとあちらのもので、日本には天女はいるが、ああいった羽の生えた金髪巻き毛の子供はいない。
ずっと純真なまま一向に年をとらないのは少し気持ちが悪い気もするけど、いろいろ罪を重ねて懺悔の一つもなさりたいかたは、ひとつフランスへ行って天使にでもなりましょう。
(音楽畑 20 '03)
音楽畑(シャン ドゥ ラ ミュージック) Champs de la musique (サントリービールCM曲)
去年20作目をリリースして一応終了した音楽畑、あれから20年はあっというまでした。一応とか取り敢えずとかいう言葉を使っているところを見るとまだ未練が有るなー、などと言われておりますがそんなことは有りません。多分有りません、ま、無いと思います、絶対無いとも言えないか、ま、ちょっと覚悟はしておけ。などと「さだまさし」しておりますが、その不安定な精神状態がこの「オーサーズベスト」に良く表れております。
「オーサーズベスト」などと言いながら3曲新曲が収録されております、これがなんとも未練たらしいですねー。
さて20年続いたこの音楽畑の原点というものが実になんとこの曲なんです。当時まだ元気だったギタリストの木村好夫さんが一発で決めてくれました。後年「演歌の木村」と呼ばれる少し前の泣き節をお楽しみください。
(音楽畑 1 '84 / Author's Best '04 記)
収穫祭 Bon Appetit (日本テレビ系列『ごちそうさま』テーマ曲)
ヨーロッパ行きの船の中でのお話です。夕食で、テーブルを囲んだ4人の紳士。フランス人3人と、日本人1人の組合せ。食べ始める前に必ずフランス人が、立ち上って“ボナペチ”と言う。ボナペチが、フランス人の名前だと勘違いした、件(くだん)の日本人。船がマルセイユに着くまで毎回自分も立ち上がって、“鈴木です!”とやっていた……という、今は、昔の物語り。
(音楽畑 13 '96)
響(ひびき) Resonance (サントリーウイスキー響CM曲)
前世紀の半ば位まで音楽家の関心事は、如何に音を美しく整えるかに有った。
音の響きと言うものは、自然界の法則に基いて構成されているもので、それに敢えて逆らうものは神の摂理に従わぬ不届き者と言う事になるのだろう。
逆に、現代の作曲家達は如何に音の中に不純物を取り込むかに腐心しているかに見える。不協和音をずーっと聴いて来た後のなにげない単音の美しさ。天使の様な響の後のぶつかりあったハーモニーの新鮮な驚き。音楽とは強と弱、緊張と平和、美と醜の対立の中に生まれて来るものなんだろう。
と言うか、ま、そう言う音楽をいつも響かせていたいなーと、思ってしまう。
(音楽畑 14 '97)
ナディア マイ ラブ Nadia (映画『ナイル』テーマ曲)
エジプトにはじめて行ったのは、18歳の秋。ピラミッドやスフィンクス、涼やかな影を落とすなつめ椰子の並木道。何もかもが目新しく新鮮で、町を往き交う女性達のベールの美しい横顔も印象に残った。一昨年、なんと45年ぶりにカイロを訪れた。日本とエジプトの合作映画『ナイル』の音楽を担当することになって、ロケハンを兼ねての旅行は、とても懐かしく楽しかった。エジプトの女性は、昔の明治の頃の日本女性の様につつましいと聞いた。ま、よその花は赤く見えるという事か。
『ナイル』のエンディングテーマで、主人公のエジプト女性を描いた曲です。
(音楽畑 18 '01)
今・船出の時 Full Sail
人生にはだれでもここ一番という踏ん張り時が、一度は訪れる。
そのために我々は普段からいろんなことを知らないうちに準備しているのだろうか。
ただ残念なのは、何時それがやってくるのか分からないことだ。
ま、何時でも一生懸命やりなさいということなのだろうが、そうはいきません。
もし誰かが、さ、ここが貴方の一生一度の頑張り時だ、と言ってくれたらその時は死ぬ程張り切りましょう。今が貴方の人生船出の時なのです。
(音楽畑 19 '02)
5月の草原は愛に包まれて PLAIN IN MAY (TBS系列『わくわく動物ランド』テーマ曲)
“野生のエルザ”という映画を憶えているだろうか? 人間と野生の動物が仲良く、美しく一緒に生きていくという、実に心暖まるストーリーだった。
尤も人間のルールに野獣を取り込んでいくわけだから、相手にとってみればえらく迷惑な話で、美しくもないし、心暖まる話でもないかも知れない。
さて草原に爽やかな5月の風が吹くとき、動物達は、その心地良さに、ああ生きていて良かったと思うだろうか。
それとも何処かに身をひそめている狩人の鉄砲の鋼(はがね)のにおいを嗅ぎとって緊張に身を固くするのだろうか?
答は只一つ、「わくわく動物ランド」を見るのだ。そこに君の求めていた真実が隠されている。
(音楽畑 5 '88)
ダンス オブ シルクロード Dance Of Silk Road
法隆寺に描かれている天女と流れる雲が、シルクロードはマッコークツ(莫高窟)の壁面に刻まれている天女の舞と同じものと言う事を貴方は知っていました?
薄暗い御堂の中に、ほのかに浮かぶ天女達のたおやかな舞に何時しか心は遠く、西域の地へ飛んで行く。
(音楽畑 6 '89)
ドーヴァーの白い想い出 White Cliff of Dover
何となく海が見たくて、ロンドンから車をとばして2時間、ドーヴァー海峡はこよなく晴れていた。
真青な海にそそり立つ、白い壁。
夏とは思えない冷たい空気の中、明るい陽差しに照らされながら何哩も連なっている白亜の崖は何となく淋し気だ。
海峡は、海と陸が出逢う所、恋人達が別れ別れになる所、旅人達が去って行く所。
演歌の文句じゃないけれど、海峡はもともと淋しい所なんだ。僕も空飛ぶ鴎になりたいなー。
(音楽畑 7 '90)
若葉光る頃 Wakaba (NHK連続テレビ小説『わかば』挿入曲)
緑色は目に良いと良く言われる、子供のころから言われているので今更そんなことは無いといわれても一寸困る。勿論医学的にもキチンと証明されているのだから(?)多分本当なんでしょうよ、と思っていたら或るSF小説を読んだ。緑色はガンを誘発することが分かり、都市全体を赤い照明で覆っているという近未来ストーリーで、そんな馬鹿なと思いながらも最後まで読んでしまった。勿論僕は今でも緑色が目に良いと信じているし、又本当にそうなんでしょう。ま、いずれにしても、太陽の光をうけて輝く若葉の色は何とも言えない美しさだ。
下から太陽が透けて見える淡いグリーンは何か心を和ませる。NHK朝の連続ドラマの中で主人公の若葉につけた音楽を大きくふくらませてみました。爽やかな主人公若葉の姿を思い浮かべて聴いてください。
(Author's Best Vol.1 '04)
自由の大地 The Free Land (TBS系列『日曜特集・新世界紀行』テーマ曲)
TBS系列“新世界紀行”のテーマとして作曲したもの。
生きる事って何だろう? 人間って何だろう?考えすぎてわからなくなったら、一寸休んで、この曲を聞き給え。
(音楽畑 6 '89)
(このライナー・ノーツは、CD制作当時に書かれたものです。)