音楽畑17 Disolve
収録曲
- 1.Texture
- 2.邂逅:めぐりあい
- 3.アルハンブラの泉
- 4.桃や李の花盛り
- 5.マットグロッソ
- 6.サルサ一番
- 7.ダンスオブシルクロード
- 8.飛翔
- 9.紫野
- 10.波と光りの向こうに
- 11.まちわびて
- 12.倖せのグリーンヒル
LINER NOTES
テクスチュアー Texture
それぞれの美しい音色とフレーズを横糸と縦糸にして素晴らしい織物が紡ぎ出されるようすは、まるで美しいゴブラン織りが完成されて行くのを見るようです。 渡辺香津美さんと野呂一生さんの絶妙な絡み合いをお楽しみ下さい。
邂逅:めぐりあい Encounter
デジャビュー現象(良くデジャヴーなどと言われるが本当はこっちが正しい)は誰でも 一回ぐらいは体験したことが有ると思う。フランス語でデジャはすでにという意味で、ビューは見たということから、既視現象などとも言われる。まったく初めての土地なのに、前に絶対ここに来たことが有るなどと確信したり、次にこの人がこうしゃべるなと言うことがわかったりして不思議な感覚におそわれる。学者はいろいろ言うが、UFOと同じで100% 説明出来る訳ではない。全然知らない土地なのに何故かたまらなく懐かしくて涙がこぼれて来たりすれば、やはりこれは普通じゃない。はじめての場所で土地の人しか知らない近道をさっさと行けるなどということになれば、これはもう前世にそこに住んでいたと言うしか説明のしようがないではないか。そこでばったり逢った人が実はあなたの前世の恋人だったりしたらもうすごく楽しい。旅は予期せぬめぐりあいの連続で有るとも言える。
アルハンブラの泉 Alhambra
一時スペインにすごく凝った時期が有った。マドリッドから車を借りて地中海までドライブしたり、大西洋側のサンチアアゴ.デ.コンポステラの僧院に泊まったり、結構今でも色々と思い出に残っている。中でもグラナダのアルハンブラ宮殿は圧巻だ。真夏の強い日射しのなか色とりどりの花が咲き乱れ、物憂い午後の光りの中きらめく水を跳ね返す大小の泉が涼しげだった。西洋文明とアラブ文明の見事な融合がそこにはある、建物の外観もさることながら壁面の精緻な模様は見る人の溜め息を誘う。二つの異なる文明がぶつかり合ってそれぞれの文明を超えるものが出来上がった理想的な例だろう。
桃や李の花盛り Tao-Li
「桃李はもの言わずして、自ずからその下に蹊を成す。」我が母校成蹊学園の名前の由来となった漢詩の一部だ。私は大好きな言葉だが、最近の風潮はもの言わざれば誰も訪れてくれず、自分のプロモーションも出来ない無能者ということになるのだろうか…。能有る鷹は爪をむきだしにし、実れば実る程、頭は高くあげる世の中である。愚痴はこぼしたくないが情けない世の中になったものだ。せめて杜牧の江南春など吟じながら、桃や李の花咲き乱れる小さな村の酒亭で一献傾けようではないか。そのうちに大きな月でも昇ってくれば最高。どうやら今日はお祭りらしい。
マットグロッソ Matto Grosso
熱帯雨林にしても、フロンの問題にしても、後発国から見れば、先進国の連中が散々勝手な事をしておいてから、今更何言ってんだと言う事なんでしょうけれど、灰になってしまったアマゾンの熱帯林の面積が88年までで60万平方キロと聞くと、これは大変な事だと思う。そう言ってピンとこない人にも、フランスより一寸大きな面積の森がすでに消滅してしまったと言えば、問題の深刻さが判ってもらえると思う。全体で500万平方キロといわれる巨大なアマゾンのジャングル。どんな生物がそこで生きているのか、まだ全部が明らかになった訳では無い。どんなものが飛び出して来るかお楽しみ、という事で、地球のビックリ箱、いやもしかしたら生命の綱を、大事にしましょう。
サルサ一番 Salsa No.1
今度のアルバムにサルサを入れる話しをしていたら「サルサですか、若いすね。」 という声が出た。最近ラテンが大はやりでキューバからミュージシャンは来るは、東京キューバンボーイズ の再結成は有るはで、サルサは今しゅんの音楽らしい。冗談じゃない、ラテンは我々の世代の音楽なんだよ、ザビア・クガートとかペレスプラドとかぼくらの青春の音楽だ。細身のマンボズボンなんか無理してはきながら、ウーとかハーとか言っておった。だから今でもラテンミュージックを聴くと血が騒ぐのだ。
ダンス オブ シルクロード Dance of Silkroad
法隆寺に描かれている天女と流れる雲が、シルクロードのマッコークツ莫高窟の壁画に刻まれている天女の舞と同じものという事を貴方は知っていました? 薄暗い御堂の中に、ほのかに浮かぶ天女達のたおやかな舞に何時しか心は遠く、西域の地へ飛んで行く。
飛翔 The Hawk
この数年、和楽器、特に日本の笛に興味が有って色々とトライする機会が多くなった。笛の名手、藤舎名生さんとはコラボレーションも多い。97年のカーネギーホールでのコンサートの際も「竜と虎」という曲を演奏したし、昨年は9月にベルリンのブランデンブルグ門でのコンサートの時も「鷹」という曲を演奏した。いずれも笛の古曲を藤舎さんとの共同作業により新しい曲に仕上げたものだ。現地ではいずれも高い評価を受けたが残念ながら日本ではなかなか演奏するチャンスがなく、今回このアルバムに入れるべくロンドンで 新録を行った。鷹の鳴き声や飛翔のさまざまな形態を音楽に表現したもので、ちょっと音楽畑のアルバムとは異質な部分もあるが、これも又私のある一面だと思って聴いて下さい。
紫野 Murasakino
今の時代は、世界的に無宗教の時代だとよく言われる。確かに結婚式は神前で、クリスマスディナーショーなんかにも行って、死ぬ時は仏教なんていうのは、日本ではごく平均的な生き方だと言えよう。だからと言って、我々が神の存在を否定したという訳ではない。特に我々日本人は、伝統的に超自然的なものを恐れ、敬う風習がある。「何事のおわしますかは、知らぬども…。」で、神社に行けば手を合わせてしまったり、お地蔵さんに、赤いよだれ掛けを掛けてあげたり、お彼岸には、ちゃんとお墓の掃除に行ったりする。僕も、お寺に行くと、理屈ぬきに心が落ち着く。 日本人に生まれて良かったなあ、と思う。
波と光りの向こうに Sea & Sunlight
人間には山型と海型と2種類あるようだ。僕は海型でどこかにチラっとでも海が見えていればそれでもう嬉しい。穏やかな青い海もすてきだが、風の強い日に白く波頭が砕けるさまを見るのも捨てがたい。良くハワイなどで色々な海の姿を描いた油絵が売られているが、波の描きかたでその人の技量が分かると言っても過言では無いと思う。特に砕ける寸前の波に光りが当たって微妙な色合いになるところがなかなか難しい。ああいった色は水と光りの絶妙なバランスによって生まれるその時限りの色で、はかないけれど美しいと思う。
まちわびて Esperado
良くオヤジに、服部と言ったら時計ではなく音楽と言われるようにならなければいかんと言われた。一応三代目まで行ったけど、果たしてそうなったかどうかはいささか疑問だ。その故かどうかは知らないが、業界では服部時間という言いかたが定着しているようだ。服部に仕事を頼むと30分は遅れて来るという言い伝えで、別に威張れたことでも何でもないのだが、これだけは3代目までキッチリ守っているようです。良くいえばギリギリまで良いものを造ろうという芸術家気質で、悪く言えば単に時間にルーズなだけでなかなか直りません。人を待たせるやつ程待たされると怒るものらしい。オヤジも僕もその例にもれず待たされる と機嫌が悪い。でも本当に好きな人を待つんだったらへっちゃらだ。逢うときの胸のときめきを思いながらひたすら待つ。ね、いいじゃないですか、いや、ま、昔の話しですけど..。
倖せのグリーンヒル Green Hill (FM NACK 5『ミュージックフリーランド』テーマ曲)
丘をこえて行ったり、あの山超えたり、山のあなたに幸せが住んでいたり、どうも日本人は地平線の向こうに見える山なみに色々と望みを託すようだ。天にそびゆる高千穂や日本一の富士の山に願いをこめるのも好いが、すぐそこの小高い丘、グリーンヒルに昇るだけで結構気分は晴れる。天気でも良かったら最高だ。何か今日一日素晴らしいことがおきるような予感に包まれる。
※このライナー・ノーツは、CD制作当時に書かれたものです。