音楽畑21 Virtuosi
収録曲
- 1.秋のしじまの中で
- 2.マンタロー
- 3.気まぐれワルツ
- 4.若葉光る頃
- 5.ハルウララ
- 6.リオの海風
- 7.レクペラード
- 8.オルドスの泉
- 9.タンゴ サンチマンタル
- 10.ハート・ウォーミング
- 11.心優しき人
- 12.優しさを求めて
- 13.夢は果てなく
- 14.音楽万歳
LINER NOTES
秋のしじまの中で The November Song
昭和11年11月1日生まれ、今年喜寿を迎えた。音楽生活55周年を迎えてとくに感慨も無い。日本晴れの秋空のような毎日を過ごしながら、このままじゃ済まない予感もしている。元々が仕事大好き人間だから、忙しいと身体が調子いいらしい。情けない性分だとも思うし、まあそれが俺らしいかなとも思う。才能あふれた父と息子にはさまれて窓際族の様な存在の上に、も一つ才能に満ちあふれた孫まで現れたのだから、これはもう只嬉しいだけだと澄み切った秋空の心境の今日この頃である。
マンタロー Menth a l' eau
パリに行ってやってみたい事の一つに、カフェでぼやーっと時間を過ごすと言うのが有る。昔から何年もパリに暮らしている、もしくはパリジャンかパリジェンヌにでもなったような気持ちを味わいたいといったところあたりがその理由だろうか。とは言え、そうそうキャッフェフィルトルばかりで粘るのも芸が無い。ワインじゃ酔いそうだし、シトロナードやオランジャードじゃ甘すぎると思ったら、矢張りマンタローでしょう。特に夏は絶対おすすめです。ミントリキュールを水で割っただけだから、さっぱりしているし奇麗なグリーンで涼しげだし、何かカフェ慣れして見えるという利点?もある。佐藤君はパリが長かったことも有って同じジャズアコでも少しヨーロッパの風が吹きこんでくる感じがするのが好きだ。
気まぐれワルツ Valse Capriccioso
親子とかDNAとか、三代とか言う言葉には未だに少し抵抗が有る。特別に反抗した記憶もないが、じゃ、僕の勉強や努力はどうだったんだ、という思いも腹の中には有る。三代目で悩んでいたら家には4代目が出来ました。「色々大変だね、バイオリンも毎日練習しなきゃいけないし」とモネに声を掛けたら「バイオリン好きだし、あっちこっち旅行にも行けるし」と言っておる。ま、それでいいんだよね。考えてみたら、家の家族は7人とも全員B型。あまり色んな事気にしないで適当に、気まぐれに生きて行くのがうまいんです。今回の新曲、弦楽アンサンブルとの同録、指揮をしながら百音のこと見てたけど中々の音楽家ぶりだった。やっぱりDNAなのかなー、と思ってしまったのは、少しB型的思考か。
若葉光る頃 Wakaba (NHK連続テレビ小説『わかば』挿入曲)
緑色は目に良いと良く言われる、子供のころから言われているので今更そんなことは無いといわれても一寸困る。勿論医学的にもキチンと証明されているのだから(?)多分本当なんでしょうよ、と思っていたら或るSF小説を読んだ。緑色はガンを誘発することが分かり、都市全体を赤い照明で覆っているという近未来ストーリーで、そんな馬鹿なと思いながらも最後まで読んでしまった。勿論僕は今でも緑色が目に良いと信じているし、又本当にそうなんでしょう。ま、いずれにしても、太陽の光をうけて輝く若葉の色は何とも言えない美しさだ。下から太陽が透けて見える淡いグリーンは何か心を和ませる。NHK朝の連続ドラマの中で主人公の若葉につけた音楽を大きくふくらませてみました。爽やかな主人公若葉の姿を思い浮かべて聴いてください。(Author's Best Vol.1 / 2003)
ハルウララ Haruurara (映画『ハルウララ』テーマ曲)
あまりアクセク生きるのはやめようよ、人生もっとのんびり行こうよということで、ファーストフードからスローフードの波にのって今、高知競馬のハルウララが脚光を浴びている。初出走からまだ一勝も上げていないのにそれでも一生懸命走り続けるその姿に自分を重ね合わせる人も多いようだ。絶対当たらないというところから、馬券(勿論はずれ馬券です)を交通事故のお守りに持っている人もいる。ちょっとしたブームをよそに今日もまた負け続けるハルウララ。3月に引退レースをやると聞いた。その後は故里の北海道で余生をノンビリと暮らすらしい。これ又近頃にない好い話だと思う。(Author's Best Vol.1 / 2003)
リオの海風 Brisa Carioca
ブラジルは2回訪れた事が有る。1回目は1967年のリオデジャネイロ音楽祭、コパカバーナの紺碧の海とマラカナン、スタジアムの大観衆は今もはっきり思い出す。2回目はその数年後にNTVの音楽番組でカーニバルに参加した時だ。もの凄い人出で危うく押しつぶされそうになった。何しろ、毎年何人も圧死者が出るくらいだから、今にしてみれば、あの時はちょっと危なかったかなと思う。丁度、父が由美かおるを連れて、チリの音楽祭に参加中だったので、サンチアゴからヴィニャ、デル・マーレの会場までタクシーを手配し、良一とも電話連絡がついていざ出かけようとしたら、運転手にピストル持っているか、と聞かれた。ピ、ピストル?持ってない、持ってません!なんでそんなもの要るのかとの質問に、エンストして途中で止まると山賊が寄ってくるらしく、その時に空に向けて一発ぶっ放せば逃げて行くから念のために用意してくれとのこと。あ、それじゃもう行くの止めます、と即座に決定。チリではそんなこと常識らしい。世界の常識は、日本の非常識というお話でした。村田君のプレイは爽やかな色気が有って好きだ。
レクペラード Recuperado
あの頃は本当に日本の音楽界ジャズ一色に染まっていた。日本のジャズメンの活躍もさることながら、ジーンクルーパを始めとしてアメリカからの来日公演も多かった。そうした50年代の中で日劇のJ.A.T.P. in Tokyo公演が行われたのが1953年11月3日から6日間。当時毎月のように日劇でショーをやっていた良一さんのコネを使わせて頂いてチケットゲット。高校一年生の僕に取っては圧倒的なひと時で、ピーターソンやエラにノックアウトされた思い出は未だに鮮明に残っている。EndingのPerdidoは日本で大ヒットした事も有って一同スタンディング の大盛り上がりでした。Perdidoがスペイン語で失われしもの、という意味だと後年知った。今回それやこれや思いながら作った曲はRecuperadoというタイトルにした。元に戻すとか、取り戻すと言うスペイン語のRecuperarからの造語である。取り戻したいものは、弱った視力や体力等沢山有るが、本当に今取り戻したいものは、忙しさにかまけて、書き飛ばしたいくつかの駄作だなー、と思う今日このごろであります。J.A.T.P.も僕の音楽の原点のひとつです。相変らず平原まこと君いい味出してます。いつも本当にたよれるミュージッシャンです。
オルドスの泉 Erdus
上海から西に2時間ほど飛ぶと内蒙古の包頭に着く、中国の自治区で砂漠の町だ。そこから更に車で2時間、オルドスに到着。赤茶けた砂漠と駱駝の町、観光の砦は四方をガラス張りにした大きなレストランとモンゴルショーを見せる劇場だ。ケーブルカーの乗り場とお土産屋の向こうはずーっとどこまで行っても砂漠。取りあえず砂漠の探検に出かける、靴の上に布の長靴をはいて少し砂の上を歩いて見る。柔らかな砂を踏みしめながら丘に登ってみると起伏に富んだ小さな砂山が何処までも続いてまるで別世界のようだ。その先に青く光っている小さな池が見える。砂丘の陰にひっそりと佇んでいるオルドスの泉、鼻を鳴らしながら騒がしく駱駝の群れが横を通り過ぎて行く。風にのって何処からともなく聞こえて来る馬頭琴の調べ....と、まあそんな風景を想像しながらお聞きください。馬頭琴は包頭から程近いところに住んでいるリポの素晴らしい演奏。しばし目を閉じてお楽しみください。(Author's Best Vol.2 / 2004)
タンゴサンチマンタル Tango Sentimental
藤沢嵐子、早川真平とオルケスタテイピカ東京、桜井潔のコルネットバイオリン等等、最近名前を聞かなくなったタンゴの名手達、懐かしいなー。あれだけ一世風靡をしたタンゴも最近ではあまり聴かなくなった。タンゴでもビッグバンドでも一度人気がなくなるとあっという間に消え去ることになる。日本人は大好きー、と言って飛びつくのも早いがつまんなーい、と逃げていくのも早い。音楽でも戦争でもみな同じだ。ここで問題なのは、良い音楽だから残ったり、つまらない音楽だから消えて行く訳では決して無いというところだ。何故か僕は昔からタンゴが大好きです、アルゼンチンもコンチネンタルもピアゾラ風も全部好き、どのタンゴにも共通して流れているテーマはサンチマン、デイアトニックバンドネオンに至っては情緒不安定を通り越して、理不尽な楽器だと思うけど、そこが又良い。ということで今回も一曲やや不安定でサンチマンタルな思いを込めてタンゴを書きました。
ハート・ウォーミング Heart Warming
情けはひとのためならず、という諺御存知ですよね?では意味は、などど質問すると馬鹿にするなとおこられそうですが60才以上と以下では答えが違うそうです。知ってました?60才以上の人の答えは情けをかけると回り回って自分のためになるからひとには親切にしなさい。60才以下の人はなまじ情けをかけるのはその人のためにならない、という答えが多いそうです。ちなみに今のところ正解は前者だそうです。ところであなたはどちら? (Author's Best Vol.2)
心優しき人 Invincible (映画『不撓不屈』テーマ曲)
強いってどういうことなんだろう。音楽では強さを f 記号で表す、f よりも ff が強くて、ff より fff のほうが音が大きい。だから f 記号は絶対音量を表すものでは無くて相対的な音量を表すということで、理論上は f さえ増やしていけばいくらでも大きい音を出すように要求できる、上には上が有るという訳だ。ついこの間までは打楽器と金管楽器がオーケストラの中で一番強い音をだす楽器だった。勿論人間の力には限りがあるから強さにも上限があったのだが、近年電子楽器が出てからヴォリュームノブさえまわせばどんどん大きな音がだせるということでマーケットにでまわる音楽の強さが大幅にアップした。その上に自己主張をする人が増えたおかげでテレビなどの音声もやたらに大きくなったようだ。最近では耳がすっかり慣れてしまって音が大きいということはそれ程インパクトを感じ無くて、むしろふっとした沈黙の間や、弱い音量の楽器のソロになった時のほうがインパクトを感じる。つまり強さが弱くて弱さが強いということがあり得るのです。気は優しくて力持ち、という事ですかね。(Author's Best Vol.2 / 2004)
優しさを求めて Gentle Wind (NHK連続テレビ小説『わかば』挿入曲)
ここのところ、なんだか世の中殺伐としてると思いません? ま、昔から人を傷つけたりいじめたり、親子のいさかいやら色々有ったんだろうけど、今みたいにニュースがすぐに伝わらなかったせいであまり気にならなかっただけなのかも知れないが。それにしても事件の関係者の年齢が年々若くなっていくのは真に心が痛む思いだ。胸を痛めているだけで何も出来ない自分だけど、せめて真心こめて音楽を書き続けていきたい。世界中の人に優しさを届けたいと心から思う、聴いてくださいこの曲を。(Author's Best Vol.1 / 2003)
夢は果てなく Chasing the Dream
今から10年ほど前、仕事で地方の小学校を訪ねた時の事。服部さんに何か質問が有りますか?という先生の問いかけに一人の子供が手をあげた。「将来の夢は何ですか?」。思わずつまってしまってモゴモゴと何を答えたか忘れたけど、すごく嬉しかった。丁度、老人年金の受給資格の年になった頃で、自分でも少し色々と考え込んでいた時期だったので、パッと目の前が開ける思いがした。今年、アルバムを出すにあたり去年から書き始めた中で、小学生の言葉を改めて思い出した。やはりいくつに成っても夢は追い続けなければいけない。そんな思いを込めてこの曲を書きました。ちなみに、出だしのメロデイ、シドラは去年76才だったので706から考えついたテーマの旋律です。久しぶりにジャーさんに加わってもらいました。益々円じゅく味をましたジャーさんとのつきあいも25年になります。
音楽万歳 Love The MUSIC
音楽、バンザーイ!!
※このライナー・ノーツは、CD制作当時に書かれたものです。